戦友の真意

新太郎は眠れぬ夜を過ごしていました。

あれはいったいなんだったんだろう、
なぜか氏神さまは困っておられる
表情だったのだろう。なぜだろう、
それに他に見えた神様は何だろう。
こちらをさしてお怒りのようすだった。
なぜだろう?
もしかして我が軍の侵攻に怒りを
抱かれておられるのであろうか?
だとしても我らの氏神さまを
なぜ威圧するのであろうか、
そうしてあれやこれやと思いを
めぐらしている間に転寝をしました。
そしてその夜、新太郎は夢を見ました。
あ、あ、あれは、あれはなんだろう?
するとどこからか声がして「その上の
剣は○○神のものである」と言われた。
新之助は心の中でうなった
「ああ、この剣は、この剣は我が
氏神さまのもだ、う、う、」
この数日戦闘もなく、新太郎は戦友の
平次の隊が近くにきていると聞いて会いに
行くことにした。
「平次のやつは無事でいるのかのう?
怪我でもしていなければいいかのう、
そうだ、このあいだの氏神さまのこと
平次に聞いてもらおうかの、やつは
俺より大人みたいなところがあるから
きっと、相談相手になってくれるだろ、
うん、そうしよう」
新太郎はいまだに氏神さまが没したと
考えたくないせいもあった。
新太郎は平次の顔を見ておどろいた
なんとアザだらけではないか。
それは戦闘ではまずないあきらかに
殴られたあとでした。
おお、新太郎無事で良かった、
おお、平次どうしたその顔は
おお、これか大したことはない
ちょっと憲兵にやられただけさ
おいおい、平次よ、普通は憲兵に
やられたら大したことがない話とは
いわんぞ、うん、
そうか、そうだわなぁ、ワッハッハー
いやー、まいるのー、それを見てわしは
笑う余裕はないわワッハッハー
で、本当のところはどうなんだ
本当のところ?ああ、これはなぁ
中隊長がなぁ、捕虜の首を自慢の
刀の試し切りにしようとたくらんで
いると噂できいたので乗り込んで
問い詰めたら白状したのでギュウギュウ
いわせてやったのさ、そしたら憲兵が
とんできてこうい目にあったのさ
なんと、
近頃の成り上がり将校は戦闘では
どこにいるか分からんとこにいて
威張るときとかしゃしゃり出てあげくの
果てには捕虜に対して礼儀をわきまえぬ
奴は一度は焼きいれてやらんと
ほっておくとお国の名誉を傷つける
からなぁそうだろう、新太郎、
それもそうだ。うーん、だがのう
平次普通はそこまでは出来んぞ
まして上官に対してそんなことをして
下手すれば銃殺もんではないのか?
そうなったらそうなった時よ、新太郎
お国の名誉と自分の命とどちらが大切か
そんなことは分かりきっているだろう
うーん、うーん、そうよなぁ
しかし、平次もさすがに憲兵には手が
出せんかったか?
ああ、心配してくれている者にいくら
俺が馬鹿でもては出せんわ。
え、心配してる?
うん、騒動を起こして憲兵にやきを入れ
られるなんて何回もあってなぁ
その内、俺の正しさを理解してくれてなぁ
また、俺の家系が軍人の家系でいづれの
先祖も上級士官でありながら兵士を
守るために命を落とした勇者の家系と
知ってからは特に、おれに気づかれない
ところで見張っているんだ。
オー、監視されているのか!何か
またやったらヤキ入れようとしてか?
いや、その逆さ、また、上官に対して
いきまくと上官侮辱罪や反逆罪とかで
射殺されることを心配して守る為に
監視しているようだ。だから今回も
憲兵がくるのが早かったのさ、
そしてことが大きくならないようにと
憲兵がヤキをいれるといった形で
ことをおさめたのさ、俺には不本意で
あったが、自分を心配してくれている
者に対して逆らうことは、いくらアホな
俺でも出来んわなぁあはは
平次、お前は立派というか、
なんと言うか答えが出んくて息ぐるしいわ
そんなはづはなかろう、わっははー
あるさ、わっははー
だがのう、平次、さっき来たときの
様子ではずいぶんと落ち込んでいる
かのように見えたぞ、さすがに
痛みが大きいか?
ばれたか、さすがに痛みがそう簡単に
引かんわ、わっはははー
そうであろうなぁ、わっはははー
だがなぁ、それは何も考えていない時の
話でなぁ、むしろそうして何もしないで
痛がっているときの方が気が楽だ。
え、それでは何か悩みがあるのか?
そうさ、それは新太郎も同じだろう。
え、なんだ?
いまの戦況さ、新太郎もいろいろ案じて
いるだろう。
そりゃあ、そうさなぁ、
おれ、家の親父と違って頭がわるくてなぁ
このままではイカンと思うので意見を
中将に具申して、中将に大本営にいる
連中を戦争終結への努力をするように
ヤキを入れてもらおうと思うのだが、
どうにも、この戦況から平和的解決の
道筋が思いえがけない。困った。
え、、、中将って○○中将のことか?
そうさ、戦死した親父が言っていた
あいつは英国に留学したりと知英派で
的をよく知っている。敵を知らぬ軍人は
政治に口出しすべきでないというのが
親父の考えだったが、あの○○だけは
違うといっていた。だからさ
ええ?平次、知らんのか?中将は
とっくに解任されて予備にされている
んだぞ。
ええ、本当か?
本当だとも。もうだいぶんたつぞ。
そうか、おれは隊内では孤立している
から、何も情報が入らないんだ。
そうか・・・
そうか、終わったなぁ、
え、何が終わった?
この戦争さ
この戦争?
ああ、とぼけなくともいいだろ、どうせ
みんな思っていることだ。この戦争の
行く末さ
うん、おおいに勝ち戦の見込みは薄い
かも知れんと思う。
その程度か、おれは負けると思う
考えても見よ、一時的には今のように
占拠は出来ても強大な軍事力と軍事
物資をもつアメリカを相手に戦争を
しかけ、だだっ広い太平洋に兵力を
散りばめた日本軍、それも物資の
輸送もかんばしくない軍隊が勝つ
理由があるまい。おそらく敵の実力を
あなどっている大本営はいいだけ
占領地を押さえてから平和解決に
持ち込もうとしているんだろうが
それをやるには今しかないんだ。
勝ち戦である内にだ。しかし、
ここまでやりすぎ(占領地域の範囲)
て、また、すべての仲裁できる国を
確保していないという愚作では
もう駄目だなぁ

新之助は感じていました。「なんとか話にはついていってるが
平次は俺とはスケールが違う」と驚嘆するばかりでした。

ところで平次よ、さっき戦死した親父と
いつたようだが、
あ、そうだよ、我が家は軍人の家系でな
あとは俺が戦死したなら家はなくなる
だけさ、
え、
明治から戦はあったじゃないか
俺ん家みたいに家が絶えることは
めずらしいことではないさ、
だがなぁ、それはいいんだが、いまの
戦争で敗戦国となることだけは
許せないんだ。良くも悪くも戦争を
選んだら必ず多くの犠牲がある。
負けるとこれまでの犠牲がすべて
無駄になるんだ。俺の親父なんかの
死もみんな無駄になる。俺がいる戦争で
そうさせてはあの世でなんと言い訳
できるだろうか。
そうだよなぁ、おっと、俺もそろそろ
帰らんと脱走と間違われそうだから帰るわ、
おお、そうよなぁ、無事でいろよ、新太郎!
おお、平次も無事でいろよ!

隊に帰る新太郎は平次の心の大きさに驚き、自分が
相談しょうと考えていた氏神さまのことが、あまりに私的で
恥ずかしく思い何も話せませんでした。そしてこれが
平次と最後の別れとなることなど思いもしませんでした。

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