忘れてはならない友情
隊にもどってすぐ米軍による大規模な爆撃にさらされた。だが新太郎と
仲間たちはひるむことなく、敵機に銃撃をくわえ戦意の衰えぬ姿勢を
誇示した。そして数日後、意外なうわさが新太郎の耳に聞こえた。
「あの隊の暴れん坊が戦死したそうだ、なんでも爆撃のさなか負傷した
隊長を救いに戻って吹っ飛んだらしい。」
新太郎は驚いた。平次のことだ!爆撃は新太郎と別れてすぐではないか
あの後、すぐに爆撃は始まっていた。愕然とした。
「平次は憲兵隊にヤキを入れられて全身打撲で動くのは大変だったはづ!
なんで、それも憲兵隊にヤキを入れられる原因となった隊長を救う為に
命をかけるなんて!新太郎は心の中で叫んだ「平次、貴様ー、何で死んだ!
何で死んだんだー!」そして耐えていた新太郎の頬に一滴の涙が流れた。
そして新太郎は感じた、もう日本軍は中身を失った。そう感じた。
やがて新太郎は敗退を重ねる日本軍の中にあって常に最後尾を
守り、老兵を先に後退させるという過酷な状況を選んでいた。
それは新太郎の隊が新太郎よりも若い兵隊がほとんどであったこと
もあったが、それ以上に新太郎の老兵をいたわる姿勢がおおきかった。
しかし、その為の犠牲者も多大であり、ついに新太郎の隊もジャングルの
中で僅か数名という最後の時がきていた。
新太郎は先に
若い兵隊を後退
させてから集合
地点に戻って見ると
愕然とした。
すでに全員が腹部に
銃弾をあびて絶望的
状況でした。そして
他の隊では負傷者の
大半はおいて行か
ないでくれと叫ぶのに
この隊では、逆でした。
そうしたなかで新太郎は
叫びました。貴様らが
今日まで俺をまもってくて
たように俺は貴様らを
見捨てない。待っていろ
今、敵を蹴散らしてから
お前たちを連れて退却
する。そうすると
すすり泣く声が
溢れました。
そして新太郎はジャングルを飛び出し、ただ一人果敢に米軍に
突撃するのでした。そしてスローモーションのようにめぐる意識の
なかで新太郎は語っていました。「氏神様、申し訳ない、新太郎めは
もう氏神さまの祠をお守り出来そうもありません、平次よ、聞こえるか
見えるか!これがおれの散り際だ。いままでどうも貴様には自分は
負けているような気がして仕方がなかったが、どうだ、この散り際は
負けてないだろう、そう言うてくれるか平次、」
そして次ぎの瞬間新太郎は米軍の迫撃砲を浴び、吹っ飛んだのでした。
しかし、どういう奇跡か、全身を地面に叩きつけられ普通なら即死のところが
意識が一年ももどらぬまま捕虜になっていました。
やがて敵地て意識を取り戻した新太郎は死んでいなかったことを悔やみ、
慟哭するのでした。
そして終戦、帰国しても新太郎の心は回復せず、ぬけがらのような生き方を
していました。
そして新太郎はときどき鎮守の森の入り口に来ては、祠があるところへ
行くのをためたっていました。しかし、何回目かにしてようやく祠に到達しました。
しかし、いくら待っても氏神さまは現れませんでした。新太郎はやはり氏神さまは
没入されたと感じました。そして思いました。私の為に正義のない戦に出張られ
神の座を失われたのだ、没入されたのだと自分をなじるのでした。
それ以後、私にはもうこの祠の前に立つ資格はないと、鎮守の森の入り口から
中にはいることはありませんでした。
そうした心が病んだ状態の新太郎にある出来事がありました。それは
農作業の途中、お昼のひと時のことでした。夢の中で声が聞こえはじめました 。
それは、新太郎にとって懐かしい声でした。それはまぎれもなく平次の声でした。
その声はこう叫んでいました。「おかしなぁ、確かにこの村と新太郎はいっていたが
どこにもいないなぁ、あの正義漢はどこだろうなぁ、寂しいなぁ俺と競った正義漢が
今も立派にお国ずくりに、俺の果たせなかった平和な国ずくりに頑張っているはず
なのになぁ、仕方がない、あきらめて他をあたるか、いやぁ、残念、残念。」と
はっきりと聞こえたのでした。それを聞いた新太郎は大声で俺はここだと叫ぼうと
しても、声にはならず、ただ、うおー!うおー!と涙ごえになるのみでした。
そしてめざめた新太郎は思いました。これは平次が私があまりに弱いので
叱咤しにきてくれたんだ。そうだ私はなんて女々しかったのであろうか、
なんで平次のような立派な奴に、笑われるような弱弱しい生き方をしていたの
であろうか、これでは平次に申し訳が立たない!若くして死んでいった戦友
たちに生き残りの新太郎がこれではと恥を書かせてしまう。そう新太郎は
思いました。
こうして新太郎は傷ついた心は消すことは出来ないが、無念の最後を
果敢に駆け抜けた若き戦友たちの為にも、生き残りとして生涯、
戦友としての誇りを受け継ごうと心に刻む新太郎でした。