別れの時 2

こんにちは、
え、
早苗どの、おお、新之助どの
いい機会です。さきほど話に
あった私の許嫁の早苗どのです。
これは、よろしくお願いいたす。
新之助と申します。
早苗と申します。よろしく
お願いいたします。
早苗どの、会えてよかった。
事は急を要しますゆえこちらからは
会いに行けずに出かけるところ
でした。
そうでしょう。父上からそのように
聞きましたので急いで参りました。
本当は幸太郎どのと共に戦に
参りたいと父上に申し上げましたが
とても叱られました。でも私は
たとえ、一緒に戦に行けなくても常に
生死は夫婦としてともにあると自覚
しています。ともに戦いましよう。
承知、心のおきなく戦い手柄を
早苗どのにとどけましょぞ。
頑張って、承知!
新之助どの、道中の力飯を幸太郎
の分と用意しました。どうぞ
くれぐれもお気をつけてお帰り
くだされ、ありがとうございます。
母上、ありがとうございます。
では事は急をようしますので出発
いたします。ええ、くれぐれも
油断なくするのですぞ。
ハイ、母上、
こうして私と幸太郎どの達とは
別れて幸太郎どの一行は
峠の上の砦へと向かい、私は
最初に来た峠の街道をもどり
家に向かうことになったのでした。
そして幸太郎どの一行を
追うようにしてお母上どのに
お礼を述べた後に旅立ちました。
そして思うのはまるで戦で死ぬかも
知れないということを考えていない
かのようなみんなの明るさが
理解出来なかった。しかし
別れて随分離れたところで
振り向くと悲しみに耐える
二人の姿が見えたのでした。
それを見た私はあわてて気づかぬ
ふりをしました。それは決して
死を覚悟していないのではないと
分かるに十分な光景でした。
そして私も胸が苦しくなりました。
そして、こうして蒲生の人たちとの
別れ離れることが出来た、
ひと時の瞬間、ホッとした感が
なぜかあった。
それはぎりぎりの生き方に対する
緊張感と恐れから開放されたとの
安堵感からだったと思う。
しかし、それはひと時の思いに
過ぎなかった。次に巡る思いは
もうあの素晴らしい人々と過ごせない
のかという思いに虚しさと寂しさが
心に広がったものでした。
ああ!あれは、
あれは銃声!あーもしや、
あー、もしかして
そして、次の瞬間には
駆け出しました。
その時の状態とはなにを
考えるでもなくひたすら
幸太郎どのの一行を追うこと
そして頭の中は真っ白でした。

新之助親子の里
ホームへ

目次へ

そんなことを思う間もない時でした。

次のページへ