損なわれたもの

前編 2

エィサァ、エィサァ、エィサァ
 エィサァ、エイサァ、エィサァ
  

わたしはこの勇ましく、またすがすがしくもある
 掛け声に頭の中は真っ白になりました。
  おお、この掛け声はすごい!まったくすがすがしく響き
   精悍さがにじんでいる!お、お、何という気迫

この掛け声は?なんと勇ましきかな、
 まさにまことの武士の掛け声とは
  このようなものではあるまいか、

そして飛び起きると必死に
  追いつこうと駆け出してしまいました。

やがて追いつくと彼らは川原で剣術の稽古を
 始めていました。そしてその内の一人が声を
 掛けてきたのでした。

貴公は何者か?なぜ我等の
 後を追うのか?
申し訳ありません!
私は新之助と申す者、先ほど野宿
していましたら貴殿等の勇ましき
掛け声を聞き、これは聞いたこともない
すばらしい気合を感じ、どのような
方々かお会いしたくて参じました。
さようでござるか、感心されるほどとは
思いませぬが気合を感じられると
したなら、貴殿もご承知のように
薩長軍が錦の旗をかかげて江戸から
北上してきているご時世、われら
とて自然と稽古にも気合が入って
いるのでござろうなぁ
ところで貴殿は見かけぬ顔だが
どこの新之助殿かな?ぶしつけ
ながらどこから薩長軍の間者
(スパイ)が入り込んでいるやも
知れんのでな、一応たずねたい。
ハイ、私はこの山の向こうにある
滝の郷の者で性は長谷山と
申します。
うん?滝の郷といば領内でも名高き
剣豪の里ではないか、それに
われらと流派は近い、それなら
太刀筋で間者でないことは確認
できるわ、お手合わせ願えるかな?
承知いたしました。いざ!いざ!

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